作品解説
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第1遊水池 作品解説

 小川からはさまざまなものがあふれ出しました。宇宙船あり、一角獣あり、アナクロな宮廷あり、ぽんこつ自動車あり、新幹線あり。
 皆さんにお目にかけることができるそれらの作品を紹介します。
 このコーナーを作ってから半年、あおり文がずいぶん恥ずかしいものに思えてきました。第一長いし。
 しかし、書いてしまったものについてはこのまま残します。今後はもっと簡単になりますけど。


 この第1遊水池と三日月湖の作品に付属するイラストは、すべてイラストレーターの方の了承を取ってここに掲載しているものです。転載は許可しません。


☆ まずは一報ポプラパレスより 1 ☆  1996年10月9日初版 

☆ まずは一報ポプラパレスより 2 ☆ 1998年4月30日初版

☆ アース・ガード ☆  1998年8月31日初版

☆ アマリアロード・ストーリー ☆  1999年3月31日初版

☆ こちら郵政省特配課 ☆  1999年8月31日初版

☆ イカロスの誕生日 ☆  2000年5月31日初版

☆ 回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲイター ☆  2000年9月18日初版

☆ PLANETALINK ☆  2001年1月29日公開 デジタルデータ著作

☆ グレイ・チェンバー ☆  2000年12月30日初版




☆ イカロスの誕生日 ☆
ソノラマ文庫 本体571円 2000年5月31日第1刷 ISBN4-257-76904-1
イラスト 大本海図
(以下、アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」のネタばらしがあります)

 広い空に夢を抱く少女・自在はるか。彼女は特殊器官保持者として政府から迫害を受ける身だった。圧迫にもめげずに明るく強く空を舞うはるかが、日本に引き起こした大騒動の行方は? 
 自由と束縛の意味を問う問題作、朝日ソノラマ文庫より登場!

 以上、以前のトップページに書いた惹句より。
 ラジオドラマも終わり、そろそろこの話について何か言っていい時期になったように思う。ちょっと裏話を。
 イカロスに関して、数人の方からご指摘をいただいた。大きく分けて二つあって、違いが面白い。

 ひとつは、「日本アパッチ族」へのオマージュではないかというもの。もう一つは、「幼年期の終わり」へのオマージュでないかというもの。
 前者は、私が尊敬する作家、小松左京氏の作品である。氏の初期作品に「日本アパッチ族」という長編があった。敗戦後の焼け跡の中で、食うものもなく虐げられていた底辺労働者たちが、やむにやまれず鉄を食べたところ、全身が鉄でできた超人に変貌した。彼らは全国に発生した鉄食いのアパッチ族と共同で政府に対して反旗を翻し、日本中を大破壊の中にたたきこむ。そういう話である。
「幼年期の終わり」は、アーサー・C・クラークの作品。地球は、突如やってきたオーバーロードという高度な技術を誇る宇宙人によって占領される。占領とはいっても残虐な殺戮などはせず、地球人の指導者を介して、間接的に人類の宇宙進出を阻むのみ。その目的は謎だったが、やがて、人類の中に「超人類」とでもいうべき次世代の人類が発生し、旧人類の中で数を増していくにつれ、明らかになる。――新たな高次の存在となった人類の成長を見守り、宇宙への進出を手助けするために、オーバーロードはいたのだ。

 幼年期のほうは、ラジオドラマ化のときディレクターの方から聞かれて、初めて気づいた。そういえば、似ているような気がする。
 しかし、どっちが正解かというと、やはり「日本アパッチ族」。イカロスを書きながら意識していた。
 後書きにも書いたが、イカロスたちは「逃げる」ために宇宙へと出ていった。彼らは残存人類から祝福されていない。そこが「アパッチ」と「幼年期」の違いであり、私がイカロスで書きたかったことである。あまりあってほしくない未来像を、逆説的に書いたつもりなのだ。
 ラジオドラマの解釈のされ方など見ていると、伝わっていないなあと思う。私が舌足らずだったのだが、少し悔しい。

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 2000年11月に、NHK−FMでイカロスのラジオドラマが放送された。
 イラストの大本海図さんから、記念のイラストをいただく。ありがたいことである。


☆ 回転翼の天使 ☆
角川春樹事務所 ハルキ文庫 本体720円 2000年9月18日第1刷
ISBN4-89456-753-9
イラスト 篠 雅律

 日本の小都市、塗羽市を舞台に、弱小ヘリコプター運用会社に入社した夏川伊吹が、文句を垂れつつ頑張るお話。
 飛行機ではなく、なんでヘリか、ということは後書きに書いてしまった。補足になるが一応書いておく。
 ヘリコプターを発明したのは、誰あろうヴィンチ村のレオナルド博士である。モナリザを書いたおじさんだ。らせんを描くネジ型の翼を上に向け、人力でそれを回す「ヘリックス」の絵は、全日空の昔のマークにも採用されていた。見たことがある人も多いだろう。
 その後、シコルスキーという人が出てきて、実用的なものを完成させた。飛行機と同じように戦争があったせいで発展したのだが、戦闘にはあまり向いてなくて、今でもどっちかというと便利屋的な使われかたをしている。そこがまたいい。
 歴史はある。便利である。個人的には、すごくかっこいいとさえ思う。なのに、あまりメジャーではない。飛行機ファンはジャンボやF-15の話ばかりして、こんなにすばらしいヘリには目もくれない。
 理不尽である。だから書いた。

 あちこちいろいろ取材させてもらって書いたのだが、その経緯についてはほぼリアルタイムで遊水池上で報告したので、そっちを参照のこと。
 春樹事務所の初仕事として、まあ合格点がもらえたようだ。皆さんへの面目が立って、一安心というところである。

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☆ グレイ・チェンバー ☆
集英社j-books 本体762円 2000年12月30日第1刷
ISBN4-08-703101-2
イラスト 三好ナオト
「あずまんが大王」という漫画があって、その中のやたら明るくやかましい性格のキャラが、妙なことを言っている。彼女は学校の授業中に、突然大声で叫びたくなることがあるらしい。高校生なのだが。
 それを見て、あああったあった! ――とうなずいた私は変だろうか?
 まあ変なのは確かなのだが、別に変でない普通の人も、不思議に思ったことがあるのではないか。授業中の教室にみなぎる、あの無言の束縛力を。
 私語はいけない、内職はいけない、勝手に外へ出ることなどもってのほか。そんなもの小学校の時に感じなくなった、という人もいるかもしれないが、私は大学まで連綿とそれを引きずった。よく、というかいつも授業中にこっそり本を読んでいたのだが、このプレッシャーが大変に不快で、苦痛だった。スリルだなどと思ったことはない。
 教師に怒られる、ということ以外、別に罰則などはないはずである。なのに、なぜあの呪縛は生まれるのだろうか。また、どこから。

 そういう疑問に正直に答えた話ではないけれども、逆に、1クラスの生徒全員に、逃げられない拘束をかけたらどうなるか、ということを実験してみたのがこれ。まあ普通は逃げると思うのだが、もし頑張って障害に立ち向かうとしたら、結構立場を越えた連帯が生まれてカッコいいのではないか。それを描いた。「クラス一丸・強敵撃破」である。
 もし私が過去、楽しい高校生活を送ったなら、多分書かなかった。あまり思い出したくもないほど苦くて気詰まりな時代だったので、これが生まれた。孤立を感じている現役学生の人に読んでもらいたい。

 SF的な点については、グレッグ・イーガンの「順列都市」の影響があったことを述べておく。どこが、と言われそうだが、世界すべてを再生機械の中の情報として扱うあの話を読んだ時に、同じデータコードでもリーダーが違ったらまったく別の意味を構成してしまうよな、と思ったので。
 グレチェンが順列と違うのは再生が現実世界で起きていること。違う読み取りかたをされた物質が現実世界でどんどん増えたら、現実のほうに何が起こるか。ネイバーという怪生物の形でそれが現われているが、彼らの増殖は、学校のクラス崩壊どころではない大騒ぎを起こすはずである。
 だから、2巻以降のネタもある。でも続きは未定の様子。これすごく楽しいので、ぜひ書かせてもらいたいのだが。私がいまだに一度もシリーズものを完結させていない、という負い目もあることだし。

 そうそう、ひとつ裏話を。
 実はこの本の1巻には、バージョンがふたつある。扉を開いて1ページ目に「グレイチェンバー」のロゴが入ったカラーイラストがある本は、はずれ。そのページが「スペシャルコミック・プロローグ」になっている本は、あたり。
 いや、あたりもはずれもなにも、乱丁なのだ。はずれ版になった方には、ここでおわびしておく。どうもすみません。

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