作品解説 1996年〜1999年
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第1遊水池 作品解説 1996年〜1999年

 この第1遊水池と三日月湖の作品に付属するイラストは、すべてイラストレーターの方の了承を取ってここに掲載しているものです。転載は許可しません。


☆ まずは一報ポプラパレスより 1 ☆  1996年10月9日初版 

☆ まずは一報ポプラパレスより 2 ☆ 1998年4月30日初版

☆ アース・ガード ☆  1998年8月31日初版

☆ アマリアロード・ストーリー ☆  1999年3月31日初版

☆ こちら郵政省特配課 ☆  1999年8月31日初版

☆ イカロスの誕生日 ☆  2000年5月31日初版

☆ 回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲイター ☆  2000年9月18日初版



☆ まずは一報ポプラパレスより 1 ☆ ペンネーム 河出智紀
集英社ジャンプJブックス 760円 1996年10月9日第1刷 ISBN4-08-703053-9
イラスト 鷹城冴貴
 小川一水、初の単行本。
 物語は、大国イウォーンのスパイであるデューイ・トランスという青年の一人称で語られる。時代設定は今世紀中葉、場所は架空の大陸。
 バルカン半島のような交通の要衝にある小国ウルムスターに特命を帯びて潜入したトランスは、王女グリーナの側近となってひそかに彼女の動静をうかがうかたわら、ウルムスターの国情を調べていく。しかし、戦闘機を乗りまわし、暗黒街に平気でおもむくような、およそお姫様とは思えないグリーナのじゃじゃ馬ぶりに、トランスは調子を狂わされていき、ついには……。

 とあらすじを書いてしまうと、我ながらオリジナリティーにとぼしい。
 本の後書きでネタを割ってしまったが、これを書いたときは、花とゆめコミックスの、遠藤淑子のエヴァンジェリン姫シリーズにはまっていたのである。もっとも、あちらの青年はスパイではないが。
 少女漫画にはまったのはなにもそれが始めてではなく、筆頭は「日出る処の天子」である。もう巨匠といってもいいであろう大御所・山岸涼子の代表作、少女漫画としては異端の大和朝廷伝奇アクション物漫画のことだ。そんなものを小学校の低学年で 読んでも意味がわかるわけがないのだが、おうじやおうじょたちのはなしはおもしろいなあ、と刷り込まれたことは確かである。

 以来、少女漫画の、やや主流から外れるここらの系統に、私は激ヨワとなった。那須雪絵「月光」は外角高めでいいコースである。押上美猫「ドラゴン騎士団」はちょっと変化球だが打ちたい球だ。魔夜峰央「パタリロ」はやや魔球くさいが十分いける。竹宮恵子なぞ、SFである「地球へ……」、ファンタジー宮廷物である「イズァローン伝説」「天馬の血族」と取り揃えているから、もろストライクゾーンである。
 同じ年代の子供たちが、テレビを見たり、ジャンプやマガジンを読んでいたときに、そんなものばかり見ていたのだから、先は知れている。結果として、このようなほのぼの系謀略スパイ小説を書いてしまった。

 一体なにが書きたかったのか。
 それはまあ要するに、「だである調」でしゃべる女の子が書きたかったのだ。
 漫画の例で一目瞭然だが、悪漢につかまったときに座って待っているような女は願い下げというひねくれた性質を、連綿と私は醸成してきたらしい。ここらあたりは田中芳樹の影響も受けているか。くぼた尚子も好きだった。「Girl−女子高生危機一髪」とかの、立て板に水を流すようにして理詰めで男を罵倒するような少女に、ひかれていたのだ。情けない。
 情けなさは語り手トランスによく反映されていて、高飛車女の象徴であるところのグリーナ王女にいいようにやりこめられて、文中三十回ぐらい「はあ、そうですか」と間の抜けた相槌を打っている。どこがスパイなのかわからない。私も今となって頭を抱えている。

 それだけで終わっては誰もこんな本読みたくないだろうから補足するが、ちゃんと見せ場もある。
 それはもちろん、大国イウォーンの侵略軍を、王女率いるウルムスターが悪知恵と小回りでやっつけてしまうところである。弱い主人公が土壇場で強い敵を倒してしまうという、水戸黄門からドラゴンボールにまで至る物語の伝統は、やはり強い。トランスもここでしっかり活躍するのだ。
 痛快なハッピーエンドが好きである。その狙いがうまくいったからこそ、この話は賞をとれたのだろう。
 細部のアラは少なくないが、まとまり感は、現在の自分でも納得できるレベルにある。読んでいただきたい。

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☆ まずは一報ポプラパレスより 2 ☆ ペンネーム 河出智紀
集英社ジャンプJブックス 800円 1998年4月30日第1刷 ISBN4-08-703069-5
イラスト 鷹城冴貴

 前作の続編であり、小川2冊目の単行本。河出智紀というのは一部本名で、このころはまだ小川一水の名を考えていなかった。
 ウルムスターに居付いてしまったトランスを語り手として、第2話と第3話が収録されている。と書いてから気づいたが1巻のネタバレだ。まあそれを書かないと進まないので、書いてしまう。

 ウルムスター宮廷には、何人かの脇役がいる。王宮長官ミオ卿や政務室長ヴェルヒャーなどである。これらの人物がけっこうよく造形できていたように思えたため、彼らを絡めた続きを思いついた。だから、2巻にして早くもキャラクター物の話になったわけである。――いや、1巻からすでにそうだといえばそうなのだが。
 第2話は、戦闘機に乗って外交交渉に出た帰りに森林地帯に墜落してしまった王女とトランスが、陰謀に巻きこまれるお話。第3話は、ライバル国レンツェルゲンに避暑旅行に出た二人が、陰謀に巻きこまれるお話。

 とあっさり書いてしまっても構わないほど、ストーリーよりはキャラ重視である。
 重視というか。誰でもそうだと思うが、キャラが立った話は書きやすいのである。よく聞く表現だが、キャラが独り立ちする。任せておけば安心で、彼らについて考えればそのまま話ができる。
 ここが罠で、うかうかとオートパイロットにしておくと、作者が引きずられてしまうのである。キャラの日記を書いているようなものだ。キャラが好きならそれでも構わなかろうが、私の目指すところはそんなものではない。
 であるからして、このポプラには、随処に全然関係なさそうなガジェット――小道具がいろいろしかけてある。王女が足代わりに使っている戦闘機など最たる物で、これは国土の視察に便利だとか移動時に護衛がいらなくて経費が安いとかの理由はあるにしろ、つまり出したくて出した設定であり、キャラ物じゃないぞ、という隠れた主張なわけである。――とりきみかえっていると、今度は単なる資料を書き写しただけのガジェット物に成り下がってしまうわけで、つまりリトルスターの轍を踏み果てることになる。ううん、綱渡り。

 なんだかんだ言いつつも、私はトランスとグリーナが気に入っている。第4話では脇役になってしまったが、グリーナのツッコミとトランスのツッコマレ(ボケではないのだ、彼は)はポプラパレスシリーズの中核である。
 彼らが後の作品に与えてくれた活力には、感謝の尽きるところがない。よろしければ皆さんにも味わっていただきたい。

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☆ アース・ガード ――ローカル惑星防衛記――  ☆
ソノラマ文庫 490円 1998年8月31日第1刷 ISBN4-257-76851-7
イラスト こいでたく

 あなたは山手線に乗りますか?
 あなたはアンナミラーズで食事をしますか?
 あなたは渋谷に行きますか?
 あなたはドラマのロケを見たことがありますか?
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 出ていってください。

 というようなことを本文で書き、また後書きでも書いた、今から思えば少々田舎者に過ぎた作品。
 無論いまだって、基本的な考えは変わっていない。なんだって日本は、こうデフォルト東京で回っているのか。首都圏以外に住んでいる人間は日本人の80%なのだ。地方を舞台にした話があってもいいだろう。――そう思っていることは確かだが、もっとマシな言い方をしろと思う。何も、ここまで自分がスネ者であることを公にしなくても。

 名古屋を舞台にしたアクションSFである。宇宙人の泥棒少女と、それを追ってきた銀河警察の刑事と、地球を守る謎の青年が、追いかけっこをするのである。
 書いた動機は単純で、うちから見える範囲の空に宇宙船を飛ばしてみたかったのである。また、自分が乗ったことのある乗り物を書きたかったので、トゥディとNS―1を出した。そういう内容なのである。
 出来はまずまずで、実在する建物や道路を破壊し尽くせたという点では、爽快のひとことに尽きるものがあった。同時に、他にもそういうことに共感を覚える人物がいる、ということも発見できてしまった。これのおかげで、小川一水の社会的認知度ははねあがったのである。――はねあがってなおマイナーという、ささやかな知れ渡り方ではあったが。

 ともかく、ゴジラやガメラに客が入るのと同じ方法論が、おおよそ当たった作品である。おらが町の宇宙戦争。
 この手法を敷衍したところに、実在の地名を出すと面白い、という考えが出来てしまった。後の特配はこの縛りをおおいに受けている。
 ただ、いつも思うことだが、もう少しテーマを絞ればよかったなと。地元空中戦とメカアクション、この二点だけでしっかり走ればよかったのに、宇宙人周りにいろいろ設定を太らせたところ、ややバタついた話になってしまった。
 ここらが課題であり、それはいまでも引きずっている。

 さて、一番の問題は、表紙ででかい顔をしている金髪の、ガーネットというキャラである。
 よく質問を受ける。なんでこいつの正体はアレなのかと。
 これを言ったら、当時の自分のアマチュア気分がばれてしまうのだが、言う。ガーネットは、その前に同人誌で書いていた作品から引っ張ってきたキャラなのである。あまり馬鹿馬鹿しくて可愛らしいキャラなので、つい継続して使ってしまった。
 実はまだ他にもそういうのはいる。ポプラのミオとグリーナである。グリーナは名前が変わっているが、ミオとガーネットはそのまま。
 ポプラの方では、元の作品と同じく、王女と付き添いという設定なので違和感はなかったが、ガーネットではエラーが発生した。もともとは外見と中身のギャップが激しいトリックスターという役回りだったのが、アースガードでは中身を出すひまがなかったのだ。それを無理にラストの方で明らかにしたものだから、なんだこれは、という違和感の残る引き方になってしまった。

 おおもとは、スタートレックのQのように、時として物語上の設定を頭から無視するメタな存在だった。だから、別の作品に放りこんでも問題なかろうと思ったのだが、やはりこの手のキャラは脇でどたばたしてるのが無難だったらしい。これを主役級に押し上げたせいで、高校生二人と、もう一人の主役、水砂樹の配置がずれてしまった。ううん、悔いが残る。
 しかしまあ、アースガードのあのドライブ感は、こいつがなければ発生しなかっただろう。引いては楽しくなったのもこいつのおかげか。その点ではよくやったと言ってやれる。

 小道具や周辺設定をちまちま膨らませたわりには、全体の統一感がない。各作品を書いた時点での、私の未熟さが一番わかるのが、そこらあたりだと、自分では思っている。
 まあその辺にひっかかりつつも、一気に流れていくストーリーにダッシュ感覚を覚えることで、楽しんでいただきたいと思う。

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☆ アマリアロード・ストーリー ☆
ソノラマ文庫 490円 1999年3月31日第1刷 ISBN4-257-76869-X
イラスト 佐々木淳子

 女銃使いアンジェラと、漆黒の一角獣エボニーが、かたき討ちのために大陸を北上する道中記。
 編集氏によると、もののみごとにスカったそうである。この後の特配に比べたら半分しか売れなかったとか。私の周りでも評判がよくない。
 原因をひとことで言うと、テーマの散逸、となる。要するに鉄砲とユニコーンとかたき討ちを一つの話に詰めこむ手ぎわが悪かったのだ。

 最初の着想は、中世の西洋で一匹狼の女ガンマンがうろちょろしながら敵をなぎ倒したら面白かろう、というものだった。しかしなにしろ中世だから、リボルバーもオートマチックもあってはならない。火縄銃、ないしは火打石式の鉄砲を使うのが職人じみていていいだろう。一発打つのに一分ぐらいかかるのだ。雨が降っても撃てなくなる。弾薬だって店では売ってない。自分で作る必要がある。そこを知恵と勇気とご都合主義の幸運で乗り切っていくのだ。
 主人公は女だから、男のパートナーをつけよう。人間の男じゃ面白くない。馬だ、馬がいい。馬がぼそぼそしゃべって、二人で漫才をするのだ。最後には二人は恋をするところまで仲良くなるだろう。
 ……こう書くとそれなりに面白い、というか笑える筋立てのようだが、これをシリアス路線でやってしまったのである。
 年がら年中、憎い殺したいとつぶやいている馬と女。これは重い。痛快ライトファンタジーどころの騒ぎではない。私の技量で扱える範囲を超えている。
 重いのを我慢して、ガンアクションを書くのを楽しみに350枚を上げたわけだが、結果は、鉄砲が書きたいんだか異種族恋愛が書きたいんだか忠臣蔵が書きたいんだか、よくわからないものとなってしまった。
 その辺が敗因と思っている。

 鉄砲→殺人と結び付けて、短絡的に暗い話にしてしまったのである。私はスタンスとして、銃と原発とくさいディーゼル車はこの世からなくすべきだと思っているが、銃器自体は嫌いではない。ちょっと見はシンプルなくせに、ほかに比べるものもないほど連綿と進化してきた道具だから。
 初めて火薬ができたのはどのようにしてか、皆さんはご存知か? 中国人がラーメン食いながら壷の中身をこね回して作ったのではない。それは最初、野外で起こった。
 野っぱらでキャンプしていた商隊の前で、焚き火が突然爆発した、それが起源だ、という説がある。
 キャラバンの宿営地というのは長い街道の間でもだいたい決まっているから、何度も往復して同じところでキャンプしているうちに、馬だのらくだだのの糞が地面にしみ込んでいくようになる。これが土中で硝酸塩へと化学変化する。そこに焚き火の燃えガラの炭素なんぞが加わると、立派な黒色火薬ができる。次のキャラバンがもう一度焚き火で加熱すると、爆発が起こり、おおなんだこれは、えらく物騒なことが起きたな、ちょっと調べてみるか、となるわけである。
 その辺の、見てきたようなうんちくを、わけ知り顔で語り倒して、もってアンジェラに火薬造りをなさしめたかったのだが、できなかった。
 とはいっても、少しは話の中に書いている。銃が火縄からカートリッジに進化していく描写とか、鍛造と鋳造の強度の違いとか。
 メカ好きの方に、その辺は味わっていただきたいと思う。

 もう一つのテーマの恋愛ものだが、それについての私の考えは、ぶっちゃけた話、変態に近い。
 人と馬の組み合わせは異様だろうか。異様に決まっているが、別に子作りするわけではないのだ。同性愛だのロリコンショタコンだのを持ち出すまでもなく、繁殖できない相手との恋愛は珍しくない。もとより、そちらの方面を破廉恥としてしりぞけがちなのが恋愛である。人は本能に命じられていない余計なことをする機能があるのだ。人にあるなら、いやしくも人語を解するのだから、一角獣のエボニーにだってそのような能力、あるいは欠陥があるだろう。
 そういう、世人が愛と呼ぶところのものの、グロテスクな一面を見たくて、あの二人を組み合わせたのである。
 欲をいえば、行為は不可能だろうが、ベッドシーンに近いような場面まで書いて、良識ある方の顰蹙をかってみたかった。そこのところも今ひとつ煮足りなかったといえる。

 こういろいろ欠点ばかり書くと、なんだかこの話を書いたのを後悔しているようだが、そんなことはない、ちゃんと気に入っている。少しばかり育て足りなかったというだけで。
 剣と魔法、ヒーローとヒロインのライトファンタジーに飽きた方には、ぜひ読んでいただきたい。

 余談だが、作中の「七頭竜」の出典はなんだかおわかりだろうか。
 あれは、あちこちの作品世界から引っ張ってきた竜の名前である。特に脈絡はなく、語感のいいものを使った。
 イエボーはル・グウィンの名作「ゲド戦記」より。キサンスは「ドラゴンランス戦記」。ストラボは「ランドオーヴァー」。ブラムドは言わずと知れた「ロードス島戦記」。ニメンスはマキャフリイの「竜の戦士」。ウォーゼルは、これは竜かどうか少々怪しいが、スミスの「レンズマン」。そしてギルウイングは、セガサターン「ナイツ」一面のボスである。
 竜には不思議な魅力がある。そう言えば昔、竜と戦う戦闘機の話を考えたことがあった。ほこりを払って覚書を引っ張り出して、またそんな話も書いてみようか。
 どうやら私はファンタジーが好きなくせに、意地でも科学の匂いを織り交ぜたいらしい。

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☆ こちら郵政省特配課 ☆
ソノラマ文庫 530円 1999年8月31日第1刷 ISBN4-257-76885-1
イラスト こいでたく

 郵便局が本気を出した。郵政省特別配達課が誕生した。法律に触れない限り、どんな物でもどこへでも、あらゆる機材を駆使して、迅速確実に真心込めて届けます。
 ……と、背表紙にはある。
 補足すると、クロネコヤマトに代表される宅配便の隆盛に押されて、びびってしまった郵政省が設置したスペシャルタスクフォースが、特配なのである。青天井の予算を使いまくって、カウンタックだの500系新幹線だのV−22(米海兵隊ではたしかオスプレイだったか。民間ではなんというのだろう?)だのを足代わりに、日本列島狭しと、小包を届けて回る。
 いわゆる運び屋が活躍する話は、それだけで1ジャンルを形成するほど多く書かれているので、その中では少数派の、組織としての輸送集団を書いてみたい、というようなことは、本書の後書きにも書いた。なんでまた郵政省、というような疑問は、そちらを参照していただくとして、ここでは致命的なポカをひとつ。

 お気づきの方もいるだろうが、第1話「郵便配達はサイレンを鳴らす」の着想は、新幹線の陸送から得た。以前、特命リサーチ200Xでやっていたアレ。
「のぞみ」の車体を作っているのは、神戸の三宮に近い川崎重工神戸工場なのだが、JRの広軌線がそこまで入っていないため、路線に出すことができない。どうするかというと、日通の重機建設課のベテランスタッフが、摂津の鳥飼基地まで、トレーラーに乗せてずんどこ陸送するのである。
 輸送自体は、なにしろあの巨体を公道に走らせるのだから、プロフェッショナリズムあふれる緊張感に満ちた作業なのだが、風景としては別である。なんというか、業務上のルーチンワークとしてやっている作業とは思えないほど、非日常的なイベント感があるのだ。祭りの山車が走っていく感じである。
 第1話ではそれを狙った。普通そんなもん陸送するか? というアホらしさである。

 名古屋在住の私が東京周辺のことを書くためには、どうしてもロケハンが必要だった。しかし金がなかったので、友人たちを巻き込んで取材を東京旅行に仕立て上げ、車を出させて、ガソリン割り勘で出発した。
 これが失敗だった。連中のリクエストが入って、思うように移動できないのである。結局、霞が関でおろしてもらって、徒歩でそこらを歩いたのだが、皇居は見られずじまいだった。
 結果どうなったか。第1話中では、特配9班班長の美鳥が、神田から築地へ向かうルートを見つけられず、ある非常手段をとることになる。
 実はそれが不可能だったのだ。
 ぎりぎり内容を避けて書くが、彼らが通ったある個所、そこに「高さ」のリミットがあることを、私はすっかり失念していたのだ。
 失念というか、思い込みである。これがフランスやイギリスだったら、問題はなかった。あちらはそういう造りだから。てっきり日本もそうだと思っていたのだが……。

 なんの事かわからない人は、問題の個所を探していただきたい。ああここだ、というところがある。他の個所、セレーネ計画やL―NETに関する描写は意図的なものだが、そこだけはポカったところである。
 面目ない。

 書いてわかったことだが、やはりこういう明るく馬鹿馬鹿しい話が体質にあっているらしい。仕事中にゲームに引きずり込まれることもなく、朝起きたらワープロに向かいたくなるようなことは、これが初めてだった。
 作品の質もそれなりのレベルに達していると思う。もちろん、続編も考えている。

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