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1109ニワトリ解体体験
※ニワトリ解体の文章と写真があります。
気の弱い人はご覧にならないでください。
2011年9月13日、京都府南丹市美山町にある田歌舎で、ニワトリ解体のレクチャーを受けた。
田歌舎ウェブサイト
13日10時に車で現地へ到着。快晴、微風、気温31度。
同行者は野尻抱介さん、鹿野司さん。
田歌舎は、山間の小さな谷にある、個人経営の自然体験施設。
周囲を田畑と渓流に囲まれ、杉林がすぐそばに迫る。表にヤギと犬がつながれている。
代表藤原さんから諸注意を受け、万一に備えた傷害保険に加入した。
身支度を整える。
到着時はTシャツとジーンズとスニーカーだった。ビニールのエプロンをつけ、長靴を履き、包丁を持つ。野尻・鹿野氏は普段靴。
施設の前庭に、ニワトリ六羽が平たいかごで運んでこられる。
茶色いメス鶏。コーチンの血も少し入っているが、雑種だとのこと。
生まれてから二年。規格外れの大きな大きな卵や双子卵を産むようになり、産む頻度も落ちたので、廃鶏になった。
一羽二千円見当とのこと。
指示を聞きながら、解体の手順を進める。
ニワトリを逆さに吊るすために、二羽一組で足を縛る。(写真01)
かごの中のニワトリの足首を二本一度につかんで、外へ引き出す。
足首でも温かく、摂氏38、9度はありそう。
二羽の胸を合わせるようにして横たえ、そろえた足を井の字に重ねる。
20センチほどのビニールひもで足を縛る。
林の中へ運び、木に掛け渡した竹に、二羽を逆さに吊るす。(写真02)
首をひねったりはしない。
左手でニワトリの頭部をつかむ。
指でピースを作ってとさかを挟み、くちばしを手のひらに収めて、親指であごを押さえる。
あご骨の下、やや中央よりに頚動脈が走っている。
包丁を当てて引く。小出しの水道程度の勢いでちょろちょろと血が流れ出す。
血が出ない場合はしくじっている。
1分ほどでニワトリは暴れだす。断末魔かもしれない。
そのあともう1分ほどもがくが、じきに死んでぐったりとなる。
6羽をしめるのに10分ほどか。終わるころにはもうハエが大勢集まってきた。
ニワトリを下ろして前庭に戻る。
このころにはもう体温が下がって、温かくなくなっている。
それでもまだふわふわとした羽毛が残り、鳥のイメージがある。
熱湯を沸かし、大バケツか樽のような容器に入れる。
温度計を入れて少しずつ冷水を注ぎ、水温を下げていく。
この湯に浸すことで、ニワトリの毛根を緩めて羽を抜きやすくする。
温度は摂氏65度から72度の間にしなければならない。
低すぎると抜けない。
高すぎると皮膚が破れる。
若鶏は破れやすい。廃鶏だとそうでもない。
70度の適温になったので、ニワトリを入れた。
最初は足をつかんでさかさまに浸して、揺らす。
次に手を水で冷やしてから、頭をつかんで首から下をひたす。
最後にもう一度足をつかんで頭を浸す。
十分熱くなったら湯からあげる。(写真03)
肌の色が白く変わり、足をピンと伸ばしていて、鳥のイメージから外れてくる。
まずは首を握り、親指のまたで強くしごく。
それだけで羽根が抜けて、首の鳥肌がむき出しになる。
他の部分も指と爪でしごき、こすって、毛を抜く。
うまく温まっていれば草抜きよりたやすく羽がごっそり抜けていく。
おおむね抜いたら、しゃがんでニワトリを裏向きにし、下腹部をまさぐる。
糞を排出させるためだ。
腹を押し出すと肛門(総排出孔)から糞があふれてくる。
ニワトリの左右の骨盤の内側をなぞるように親指で押しまわすのがコツ。
糞を出させたら薪割り台に陣取る。
左手でニワトリの首を持ち、両足を台上に伸ばしてやる。
ナタを使って足首から下を切り落とす。
足首より下は調理しないので適当に断てばよし。
毛をよくむしる。
毛穴に黒いものが残らないよう、脇の下なども念入りに抜く。
尻尾もすっかりむしる。
尻の辺りは毛穴が大きく、2ミリほどの穴がずらりと並ぶ。
白いはだかニワトリができる。(写真04)
解体場に移動。(写真05)
まず湿っているニワトリをタオルでよく拭く。
まな板もアルコール消毒して拭く。
基本的に調理場では水気はよくないとの由。
流水はよいのだが、たまり水はすぐ雑菌が繁殖する。
調理台にガスコンロを用意して点火。(写真06)
拭いたニワトリの頭と足を持って、コンロ上に素早くかざす。
羽根むしりのあとも残っている細い毛を処理するため。
あぶるというほどでもなく、かざす程度で、数秒ずつ裏も表も羽根の下も焼く。
済んだら解体。まず藤原さんの手本を見学する。
ニワトリをまな板に横たえる。奥が腹で手前が背、右が頭で左が足。
ぼんのくぼに包丁を入れて、背骨にそって尻まで切り開く。
首の左脇に包丁を差し、あご下まで切り上げて首皮左側を剥ぎ切る。
肩まで切り開き、肩関節を刃先で切る。
わきの下辺りに穴ができる。ささみと胸肉の間の空洞。
そこに包丁をいれ、胸側に切り開いて翼を体から分離。
ニワトリは鎖骨と肩の骨の結合部に穴があり、そこに親指を入れると前方へ引きやすい。
引きながら手羽を握って腰骨手前まで、思い切りよく半身を剥く。
竜骨突起にそって皮を切り開き、胸肉を削いでいく。
腿の付け根を露出させ、指を割りこませて押し開き、腿関節を外す。
適宜尻のほうへ皮を切り裂きながら、腿を恥骨から切り離す。
内臓側ではなく外側を、できるだけ骨に添う形で切る。
張力のありそうなスジを切断しつつ骨を外していく。
ここの切断で、ニワトリの左半身が剥ける。
同様に右半身も剥くが、右首の付け根にえさ袋(そのう)がある。
色は膜と同じで見分けにくい。
薄くて破れやすいので注意深くはがす。
解体のすべてを通じて、口から肛門にまでいたる消化器の内容物をこぼさないように、注意が払われた。
右半身を剥いて外すと、頭部と、皮の剥けた頸部と、肋骨に包まれた内臓が残る。
(このあたりで胸郭を外し、ささみを切り外したように思う)(写真07)
内臓は赤や緑や白や黄色で彩られてとてもカラフル。
腹にたっぷりついた黄色い脂肪が目立つ。卵を産ませるためにいい条件で育てていたとのこと。
外した半身をさばく。
まず手と足を真ん中で分離。
手は手羽先を左手で持って、まな板上でX字に立てる。
垂直に切り下ろして谷部分の関節を断つ。指骨と前肢骨の切断だ。
この関節はボールジョイントになっているのでボールに沿わせて断つ。
断ったところから先のほうが手羽先になる。
根元のほうは胸肉から断ち切って手羽元とする。
足のほうは骨の屈曲の内側に包丁を入れ、骨に沿わせて肉をはがす。
脛骨と中足骨の関節を断つ。ここは手の関節と違って垂直に断てる。
骨を包丁でまな板に押さえつけつつ、足先を引いて肉をはがす。
また足首部分を包丁の背で強打して骨を折り、ここも裂いて骨から肉をはがす。
これで筋肉部分はほぼ取り外した。
次いで内臓に移った。
ニワトリの背骨(鶏がら)部分と内臓の間に細かく包丁を入れて膜を切る。
鶏がらの尻部分をつかんでぶら下げ、刃物を入れ続けると、内臓が自重で落ちる。
頭の下で頚骨を切断、鶏がらを外す。
ここでもまだくちばしから肛門までの一体は保たれている。
白い腸やオレンジの脂肪や赤茶の肺などの塊に、食道で頭部がつながっている様子。
玉ひもを取り外す。「ひも」は卵管。「玉」は卵の黄身がブドウの房のように連なったもの。
生まれる前の卵だ。
卵は一日でゼロからできるわけではない。成長度合いの違うものがいくつも育っていて、最も熟したものが卵管から生まれてくる。
白い卵管の先が膨らんで、この次に生まれるはずだった卵を収めている。
開くとまだ殻のできていない半透明の卵が現れた。(写真08)
ハツを取って半分に開く。
レバーも取る。
そして脂肪の中からズリ(砂肝)も取り出す。
ズリだけは餌が収まっているのでまな板にあげない。場外。
肉のついた首の骨もとる。
大体ここまでで内臓も終わり。
残った部分は処分する。
以上のことを、手本を見ながら自分たちでもやってみた。
肉のどこを切るのか見定めるのは難しい。
肉の中からうまく関節や管を探し出すのはもっと難しい。
しかし筋肉と筋肉はどの鳥でもほぼ同じように重なり合っており、指を入れたり剥いだりということは難しくなかった。
ニワトリ解体というのは、ニワトリを包丁で切断することではない。
生き物の体はパーツからできていて、ひとつずつのパーツは案外簡単に離れる。
そのパーツとパーツをつなぎとめている膜や筋だけを切断する。
切断箇所へ届かせるために、切開する。
そうすると少ない手間と力で生き物を細かくしていくことができる。
最終的な目的は、肉を取ることだ。
できるだけたくさんの、うまい肉をとること。
そのために、食べられない骨や、不潔な消化管の中身などを取り除く。
そういう作業であるということは、やってる最中一時的に忘れていた。
きれいに肉を取り外すこと、手をけがしないように注意することで頭がいっぱい。
包丁の切れ味というのも如実に出るもので、二振り持っていった包丁のうち、普段イモやニンジンを切っている刃の薄いほうはあまり役に立たなかった。刃の研ぎに失敗していたらしい。
逆に、普段あまり使わない、刃の厚い出刃包丁は、ここぞとばかりに役立った。
切れない包丁では全然切れない。切れる包丁だとすいすい切れる。
出刃包丁ってこのためにあったのかと見直した。
しかしけっこうな注意力と腕力を必要とする作業で、一羽分の筋肉を解体したらもう疲労。
見かねた藤原さんが内臓をやってくださるというので、お任せした。
たいしたもので、話しているうちに三人分バラしてしまった。
ニワトリの腹の中から、でかいクルミのような形のズリが出てくる。
ズリは分厚い筋肉でできている。
そして歯のないニワトリが食べたものを消化するため、中に小石が入っている。
筋肉でゴリゴリ動いて中身を砕く器官。
中身がこぼれるといけないので、他の肉をさばいている間はまな板には載せない決まり。
それを最後に扱う。
少しだけ切れ目を入れて、割り開く。
内側の薄い袋があるので、それを外袋からべりべりとはがしていく。
内袋は消化物ごと捨てる。
コリコリしたきれいなズリが残る。
最終的にニワトリはきれいなパーツになって台に並んだ。(写真09)
これはステンレスの容器に入れて冷蔵。
台とまな板と包丁を洗浄して、解体は終わった。
ニワトリを潰して湯につけるまでは、毛の生えた動物特有の匂いがする。
いわゆる獣臭。
そんなに気になるものではない。つかんで手を伸ばせば鼻に届かなくなる程度。
ペットを飼っている人間なら、たぶん平気。
湯につけたころから別の匂い、生肉の匂いになる。
これは解体の最後までついてきた。
人によると思うが、自分はやや気になった。
解体されてバケツに入れられた内臓はけっこう臭い。
いっぽう、最初から終わりまで、いわゆる血の匂いはほとんどしなかった。
田歌舎へ戻り、外のテーブルで調理してもらった鶏肉料理をいただく。(写真10)
ささみ、胸肉の刺身はうまい。レバーもわさび醤油でいける。
ご飯とともに口に入れると、温まってちょっと血の風味になるので、冷たいままで飲み込むことにする。
胸肉とミョウガの炒め物や、鶏肉(部分がわからない)とトウガンか何かの味噌汁も出る。
ブロイラーと違って地鶏なので肉が堅い。
よく噛む。味がじわじわ出る。ジャーキーのよう。
晴れていて暑い日で、大変うまかった。
ばらす過程が頭に残って食欲が湧かない、ということはなかった。
しいて言えば、もともと苦手だった内臓系はやっぱり苦手のままだった、という程度。
解体した肉は保冷剤とともに段ボール箱でいただいた。
同行の鹿野さんが、家が遠くて肉を持ち帰れないというので、三羽分を野尻さんと自分で山分け。
一人当たり1キロ以上。肉としてはかなりの迫力。
置いておいたら傷んでしまうので、ちゃっちゃと食べることにする。
翌日にクックパッドで適当にレシピを検索。
よさそうなのがあったので、まずは骨のないところをごそっと調理した。
鶏肉とタマネギのりんごショウガ炒め。
うまくできたので今夜食べる。
17:08 2011/09/14 小川一水 記
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