第2遊水池 CJ4レポート
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異星文化交流シミュレーション
コンタクト・ジャパン4体験記
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〜エイリアンのAはアロハのA〜


西暦2000年11月3〜5日



 ※このレポートの挿絵、設定については、コンタクト・ジャパンが著作権を有します。
 また、今回CJ4の設定を元に、ロバート・J・ソウヤー氏が短編を執筆されました。
 ネタバレとなりますので、ご了承下さい。
 宇宙に宇宙人はいるだろうか。
 いる。少なくとも一種はいる。地球人がそれである。
 広い宇宙の、億の億倍という数の星の中で、地球だけが知的生命を育んだと考えるのは、ちょっと疑問である。我々の太陽は、宇宙ではごくありふれたタイプのもので、銀河系内では一山いくらで転がっている。むしろ生命なんて珍しいものではなく、そこら辺の星にいくらでもいて、だからこんな銀河系の片隅にあるちっぽけな星にも、地球人という生き物がいるのだ、そう考えた方が自然である。

 そいつらを呼ぶために集まって電波を送るのだな、と早合点してはいけない。
 あえて言うが、会えるわけがないのである。地球から最も近い隣の恒星までは4.3光年あり、スペースシャトルの速度でも16万1千年かかる。知的生命がいくら珍しくなくてもいきなり隣の星にはいないだろうから、半端な乗り物ではそれこそ何百万年かかっても会うことはできない。向こうから来るのも同様だろう。
 じゃあ考えても無意味じゃないかと言われるかもしれないが、それは現在の話である。将来、もっと速い乗り物を作ればいい。スペースシャトルなんて宇宙船の中ではもっとも遅い部類である。過去、人間はその5倍ぐらい速い探査機を作った。核融合という方式が実現されるともっと速くなる。核融合に燃料切れの問題がなくなればさらに速くなる。ここまでは大体、怪しくない科学で考えられていて、その場合最高速は光速の一割を超える。隣の星まで50年だ。
 このぐらいなら、生きてる人間でもなんとかたどりつけるではないか。

 そういう風に、まじめによその星へ行くこと、あるいは誰かが来ることを研究して、その上で相手と意思の疎通をしようというのが、コンタクト・ジャパンの前提である。あくまで研究だから、ほんとに異星人が来ると思っているわけではない。来ればいいとは思っているが。
 ここらを強調するのは、輪になって呪文を唱えて円盤を呼ぼうとする人たちと混同してほしくないからである。だいたい彼ら、呼んだって何語でしゃべるのか。宇宙人は賢いから地球の言葉だってわかるというのは、他力本願で軟弱な考えだ。

 宇宙人はいないかもしれない、
 いても呼びかけが届かないかもしれない、
 届いても理解してくれないかもしれない、
 理解しても答えてくれないかもしれない、
 答えてくれても信号を受け取れないかもしれない、
 受け取っても読めないかもしれない、
 読めてもさっぱり意味がわからないかもしれない、
 わかってもそもそも会えない。

 それだけの障害があることを初めから承知して、科学でもってこれをひとつひとつ解決していくのが、異星人探索の正しいやり方である。
 コンタクト・ジャパン(以下CJ)は、この中の異星人との意思疎通を主題としたイベントである。まず異星人はいるものとする。知的でもある。そして彼らがこちらへと呼びかけ、また答える能力もあるものとする。しかし、彼らがどんな種族でなにを考えているのかはわからない。そこで、参加者が2チームに別れて、それぞれ地球人と宇宙人の役割を演じ、最終的に対面することを目的として交信を交わす。その過程を、チームの人間が知恵を絞って考えるのである。

 今回のCJ4は、4回目のイベントである。CJの沿革や、前3回までについては、CJホームページSFオンラインで紹介されているので、省略する。
 まずは、現在のCJのつくりについて書こう。

 CJ4は、2000年11月3日から5日に、神奈川県厚木にある石川島播磨重工研修所で開かれた。
 参加者は、スタッフ、ゲストを入れて70名ほど。私はこのレポートを、SFやコンタクトをまったく知らない人にもわかるよう書いているつもりなので、あえて名前を列挙することはしないが、ウェブ上のSF方面では知られた方々がずらりと集まっていて、結構な壮観だった。
 もちろん、猛者ばかりではなく、私も含めてのCJ初参加者や、そもそもSFとはまったく関係のない方面の方も来ていた。とりあえず全員、地球から太陽までの距離は脊髄反射で答えられるような人々ばかりだったが、初めての人がどんどん増えるのはよいことだ。
 参加者はランダムに6チームに分けられた。3チームが地球人、3チームが異星人である。うち2チームが一対になってコンタクトを行うので、都合3セットのコンタクトが同時別進行する。会期中は自分たちがどのチームと接触しているのかはわからないし、聞いてもいけない。
 異星人と地球人は、スタッフから設定を与えられる。各サイドで3チーム共通だが、コンタクトの進行につれてセットごとの差異が出てくる。だから、同じ地球人にもバラしてはいけない。最後に相手と対面してのタネ明かしがあるが、それまでは全員、別の星の人である。口をむずむずさせながら黙っている。風呂に入るのも飯を食うのも一緒だが、心の距離は1光年。この微妙な間隔を保つのが楽しいのである。

 両サイドの基本設定は、今回、地球人側を日本のSF作家の野尻抱介氏、異星人側をカナダのSF作家、ロバート・J・ソウヤー氏が担当した。前回のCJ3では、厚さ1センチになんなんとする詳細な設定書が配られたそうだが、詳しすぎて時間内に活かしきれなかったとかで、今回は両者12ページの簡単なものであった。
 それでよかったと思う。今回私は地球人サイドだったが、宇宙人から送られた通信一本のおかげで、丸々二日引きずりまわされた。その通信はトンツーで表された1と0を並びかえる形式のもので、かなりの難関だったが、CJ3ではそれどころではなかったらしい。同じトンツーであっても、周波数帯、変調方式、パルス間隔まで指定されていたそうで、そんなものを解析するのは本職の学者の仕事である。しかし3では、パソコンを持ってきた人が本気でそれの解析をやっていたらしい。
 そんなもの、私にはお手上げだ。今回もパソコンを持ちこんで、てぐすね引いて計算したがっていた人がいたようだが、あっさりその段階はすっ飛ばされて、はい信号が画像になりました、となった。画像になってもその意味を考えないといけないから、まあそれぐらいが適当なのではないか。

 さて、問題は接触の方法だ。2チームに分かれて通信するといっても、本当に無線機を使ってピーガーやるわけではない。
 各チームは、企画中一室にこもって議論をする。これを分科会と称する。一室には参加者の他に、議長と書記とスーパーバイザー(以下バイザー)と呼ばれる3人のスタッフがいる。この人たちは、相手チームの設定もおおよそ知っている。
 地球人参加者がたとえば、異星人の船にむけて信号を飛ばそう、という提案を出したとする。すると議長がそれを決定事項にし、バイザーに伝える。バイザーは提案書を持って部屋を出て、相手チームのバイザーを呼び出し、廊下でごにょごにょと相談する。
 相手チームのバイザーはそれを相手参加者に伝え、答えの決定を待って再びこちらのバイザーにそれを通達する。バイザーが戻ってきて、返信が帰りました、と報告することで、通信が成立したとみなすわけだ。
 通信の他にも、探査機を飛ばすのでも基地を建設するのでも、一事が万事この調子。バイザーは参加者から相談を受けた時にすぐ答えなければいけないので、大変な役割である。もっとも私のチームのバイザーは、それとなくチームを誘導する議長の方がもっと大変だと言っていた。どちらにしろスタッフは皆、つわものぞろいと言う印象だった。

 小道具の話を少し。
 分科会の壁にはB紙が張ってある。左が地球人、右が宇宙人と書いてあって、上から下に年表が伸びる。何か行動をすると、年表の片側にそれを書きこんで、反対側の宇宙人側へ線を引く。この線は何かというと、相手まで光年の距離があるので、通信や探査機が届くまで時間がかかるのである。それがいつ届くかを表す。
 1光年の距離がある場合、2050年に発した通信は、斜めの線で相手の2051年に突き刺さる。答えの線は2051年に出て、2052年に帰ってくる。企画が進むと、左右に交錯する線で列車のダイヤグラムのような図形ができる。
 また、片方の部屋だけが何年も進んでしまうと、その間に相手から放たれた通信を聞き逃してしまうかもしれない。議長卓には現在日時を表すプレートが出ている。これを進めるのが企画の進行なのだが、双方の進み具合を知っているバイザーが、随時アドバイスをしてプレートを進めたり止めたりする。
 そして、白板がある。議事進行は、書記がかたっぱしから白板に書きこんでいく。また、送信行動表という紙片もあって、あらゆる行動は1回1枚でこれに書きこまれ、それのやり取りが相手との交渉を表す。

 小道具といえばそれですべてである。こんな大時代的なアナログじかけで、見たこともない宇宙人との、科学技術を駆使した接触をシミュレートしてしまおうと言うのだ。何かの流用かもしれないが、考案者の柔軟な発想力が感じられる。参加者はこれについて行き、可能な限りの想像と論理を働かせるのだ。

 さて、CJのおおまかなつくりは分かってもらえたと思う。わからなくてもよろしい。下の問答を見ていけば、なんとなあく感じられるだろうから。
 いよいよ、第4回コンタクト・ジャパン、Cチームの奮闘が始まる。

(西暦2000年11月6日記)

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